なぜ天宮さんは頑なに僕を部屋に入れないのか。
いくら考えてもわからない。
腑に落ちないもどかしい気持ちを抱えながら、僕は部屋と廊下を隔てる襖から離れた。
「……平助、あまり長居して天宮さんに無理をさせたらダメだからね」
「もちろん、わかってますぜ」
背後に平助が部屋に入る音を聞きながら、廊下を歩く。
部屋に戻る気になれなくて、日差しが程よく当たる縁側まで来ると、縁に座り、外に足を投げ出す。
そう言えば、ここ、去年の秋ぐらいに、天宮さんが羽織を手直ししていた場所だ。
目を閉じれば、月明かりの下で寄り目になりながら、一生懸命羽織を縫う彼女の姿が浮ぶ。
さらに集中すれば、秋と冬の季節の境目に感じる、ひんやりとした風を感じた気がした。
初めて髪を拭いてくれた感触や、「僕が舐めてあげようか」って言った後の、恥ずかしがってる天宮さんの顔を思い出す。


