「山南さん、入っていいですか?」
「はい、いいですよ」
部屋の戸を開けると、紙に筆を走らせる山南さんの姿があった。
大坂での出張で左腕を怪我した時の山南さんは、見るからに辛そうで見れたものじゃなかったけど、明里という角屋の芸妓と結婚してから、以前のような温かい人に戻った。
現在は屯所の近くに二人で住んでいて、山南さんは毎日ここに通っている。
前ほど頻繁に会えなくなったけど、山南さんが幸せならそれでいい。
もし、二人が結婚しなければ、山南さんの未来は悲しいものになっていたと思うから。
それもこれも、山南さんが幸せになれたのは、天宮さんが頑張ってくれたおかげだ。
それ以来僕は、ますます彼女の事が好きになっていた。
「どうしました?また相談に乗りましょうか?」
「……お願いします」
たまにだけど、天宮さんの事で山南さんに相談に乗ってもらっている。
山南さんも僕の話が面白いらしく、よく聞いてくれていた。
「さっき天宮さんと初詣に行ってきたんですけどね……」
僕は初詣の事を話した。
ちなみに坂本の名前は伏せている。
以前、間者の疑いを掛けられた天宮さんに、また同じ疑いを掛けられないようにするためだ。
「総司は自分が知らない天宮君を他の人が知っている事が気に入らないんですね。ふふっ、本当に天宮君の事が好きなんですね」
「……笑わないでくださいよ」
「すみません」


