私の師匠は沖田総司です【下】



日が沈み、朧月が夜空に昇る頃。

庭で空を仰いでいると、こちらに近付いてくる気配がした。

そちらに目を向けると、艶子が歩いて来るのが見える。

「急に呼び出して悪かったな」

「ええで。それで、話しって何や?」

艶子はこちらに警戒しているようにみえない。

むしろ自然すぎる空気が逆に怪しく感じた。

「俺が言いたいことは一つ。アンタ、間者だな」

「……ぷっ、ははははは!夜に呼び出されて、一体何を言われるんやろうと思ったら、ウチが間者やって?斎藤はん、そないな冗談言うためだけにウチを呼びだしたん?」

「黒猫」

黒猫、という単語に艶子はピタリと笑うのをやめた。

「黒猫はアンタの通り名だな」

真っ直ぐ目を見ると、艶子から笑顔は完全に消え失せ、真逆の冷たい表情へと変わる。

その表情が何よりの決定的な証拠だった。