「組長さん?ヤクザかなんかですか?私にはそんな怖そうな上司どころか知り合いはいませんよ。龍馬さんはおかしなことを言いますね」

そう言って、蒼蝶はクスクスと笑う。

「……最後の質問。おまえの剣術の師匠さんは誰だ」

「私、剣術なんてやったことないじゃないですか。だから師匠なんていませんよ」

……俺の質問に答える蒼蝶は嘘をついているように見えなかった。

本心から言っている。

たぶん蒼蝶は記憶を失っているんだ。

それも新選組や組長さん、そして師匠さんのことに関してのみ記憶を失っている。

「……変なことを聞いて悪かったな」

「いいえ、気にしないでください」

「身体の調子はどうだ?」

「少し怠いですけど、平気です」

「そっか」

「……龍馬さん」

「ん、何だ?」

「呼んでみたかっただけです」

「何だよそれ」

「えへへ……」

布団で口元を隠し、照れたように笑う蒼蝶に微笑む。

なぜ蒼蝶が誰よりも大切に思っている師匠のことを忘れたのかは分からない。

気にならないと言ったら嘘になる。

でも今は蒼蝶が人形じゃなく人間として目覚めてくれたことに心から喜びたかった。