ゴクリと唾を飲み、信じ難いその光景に私は身動きが取れなかった。


人は恐怖した時、慌てふためき、取り乱してその場から逃げ出すものと思っていたけど、まだ私はそれが本当に怪談の中の幽霊だと理解出来なくて……ただ立ち尽くしていた。


だけど、足が震える。


見たくないものを見てしまったという思いが、恐怖となって背筋を撫でる。


そんな動かない……いや、動けない私を動かしたのも、また「赤い人」だった。








うつむいていた頭をゆっくりと上げ、狙いを定めるかのように赤く染まった顔を私に向けて……ニタリ不気味な笑みを浮かべたから。


「ひっ!」


本能で感じる事が出来るレベルの危険信号に、私は目の前にある階段へと走り出した。


「い、今のが『赤い人』なの!?何で私の前に!」階段を駆け下りて、一階に向かいながら混乱している頭で必死に考えた。










「赤い人」を見たものは、校門を出るまで決して振り返ってはならない。振り返った者は……。









身体を八つ裂きにされて校舎に隠される。







ただの怪談だと思っていたのに、その話の中の「赤い人」が本当に現れるなんて!


あれは、見間違いだとか誰かのイタズラじゃない。


考える事も拒否してしまう、存在してはいけない者だ。