優香にそう言われて、私は思い出した。


そう言えば、音楽の授業中にスマホを触ってて、歌の練習になったから慌てて机の中に入れたんだった。


「そうだよそうだよ!音楽室の机の中だよ!」


「じゃあ行ってらっしゃい」


呆れたような表情を浮かべて手を振った優香に、私は慌てて詰め寄った。


「え?え?一緒に来てくれるんだよね!?」


「なんで私が。音楽室くらい一人で行けるでしょ?」


「だ、だってほら……放課後に一人でいると『赤い人』が現れるんでしょ?もしも『赤い人』を見たら……」


校門を出るまで、決して振り返ってはならない……。


怪談の中にある、条件の一つが私の脳裏をよぎった。


「里奈、あんたいくつよ?そんな話を本気で信じてるの?」


人差し指でツンと私の額を突いて、バカにしたような笑みを浮かべた。こんな時、優香は一緒に行ってはくれない。


一人でいちゃダメなら、二人でいれば大丈夫だと思ったのに。


「ほらほら、校門で待っててあげるから、早く行って来なよ」


優香にそう言われ、バンッと背中を叩かれて私は廊下を出た。


確かに、「赤い人」を本当に見たという話は聞いた事がない。


だから大丈夫だと思っていたけど……私は、何が何でも優香と一緒に行くべきだったのかもしれない。