「ほんっっっとにごめんなさい!!」

山城がパン、と顔の前で手を合わせて謝る。

「いいよ、別に」

山城の仕事がもうすぐ終わりそうなとき。

図書委員顧問のせんせーが来て、山城に仕事を押し付けていった。

まぁ、山城が断れなかったんだけど。


「頼られるのが嬉しくて......その......」


居心地が悪そうにもじもじしだす。

「.........」

「............怒ってる...よね......せっかく待っててもらったのに...」


しょぼん、という言葉がピッタリだと思う。

耳が生えてたらたれてんだろうな。

「............いや」

これは、あれかもな。


窓越しに見てきた山城は、いつも無表情で感情なんてあんのか、と思ってたけど。

意外と表情豊かなのな。

...っつっても、この関係がなかったら見られなかったんだろうな。

そう考えたら、これは。


「......優越感、かな」
「?」

「...なんでもない」

ぽん、と山城の頭をなでる。

すると、少しだけ頬を染めてされるがままになっている。

こころなしか、少し嬉しそうに見える。


「......怒ってない?」

「ん」

「............ほんと?」

「ほんと」
「.........」

目に見えてホッとしだす。

......ま、いっか。


腕時計に目をやると、時刻は午後6時40分を少し過ぎたくらい。

外はまだ夕暮れだけど、すぐに暗くなるかな。

「さて、帰っぞ。神楽」

「うん......え?」
「ん?」

ぽかんとした顔で見上げてくる。


「え、あの、名前......」

「この方が自然だろ?」

「......そ、うね」


顔を赤くして嬉しそうに少し笑う神楽を見てると、なんというか、いたずら心がわいた。

腰をおって神楽の顔を下からのぞき込むようにして、口を開いた。

「神楽は?」
「え?」
「名前、呼んでくんないの?」

そう言うと、一気に顔の赤みがました。

言い過ぎかも知んないけど、リンゴだな。

「な、なな...名ま、え?」
「うん」

「そ、それは、恥ずかし、いし」

「...ふぅん?」
「......?」
「俺は呼んだのになー。へー。」


ふいっと神楽に背中を向けて歩き出す。


「散々待たされたのになー。わがまま一つも聞いてくんねーんだなー。」

わざと棒読みで言うと、後ろから慌てるような気配がした。

やっべえ、楽しい。


「あ、あのっ」


くいっと服の裾を掴まれる。

顔だけ軽く後ろを向くと、少しだけ泣きそうな顔が見えた。

......やり過ぎたかな。

「......えと、その...」

「.........」

「...ひ、」

「..................」

「...ひびき、くん...」


恥ずかしがりながらも口にした、俺の名前。

............あぁ、やべぇな。

これは、そうとうな威力だわ。