「山城ー?」
次の日の放課後、さっそく山城の教室まで来てみたんだけど。
「山城ちゃんならいないよぉ~」
そう声をかけてきたのは昨日のケバ女。
「ってゆうかぁ~ひびくん、あたしにもかまってよぉ~」
すり寄ってくる女に多少イラつきながらも、話に付き合ってやる。
「悪ぃな、俺も忙しいんだよ。今度構ってやっから」
「約束ねぇ~?」
’’はいはい’’と流しながら教室から出て、考える。
「......どこにいんだ?」
あいつの居そうな場所。
屋上...は、ない。
俺みたいなサボリが使うならまだしも、あいつはない。
空き教室も当然ない。
......あ。
「あんじゃん、いそうなところ」
むしろなぜすぐ思いつかなかったのか疑問なくらいだ。
「...図書室」
高校で、というより小学校の調べ学習的なやつで入って以来、久しぶりの入室。
イメージと寸分の狂いもなく同じ。
難しそうな、つまんなさそうな本がずらりと並ぶ部屋。
その部屋の奥に一人、窓際に座って本を開いている女がいた。
「...山城」
どうやら図書委員も帰ってしまったようで、彼女の座る机には鍵が置いてあった。
「......寝てるし」
呼びかけても反応がないから、近づいてみると、すやすやと寝息を立てていた。
窓に寄りかかるようにして無防備に眠っている。
彼女の向かいの席に腰掛け、じっとその顔を眺める。
......にしても、ほんっとに可愛い顔してんなぁ。
目をつむっていても、その容姿は可憐で可愛らしい。
’’人形’’。
そんな言葉よりは、’’かぐや姫’’という言葉のほうが浮かんだ。
触れたら散ってしまいそうで。
でも、触れてみたくて。
そっと、手を伸ばし、起こさないように頬に触れた。
「......ん...」
小さく声を出したけれど、起きる気配はなくて。
頬に触れている手を少しずらし、唇に触れた。
.........カレカノ、なんだし。
いい、よな......?
俺はそっと立ち上がって、彼女の顔に自分の顔を近づけた。
そしてそのまま唇を重ねようとした、そのとき。
「...あ、かつき、くん...?」
間近声が聞こえて、そっと目を開けた。
視線の先には、驚いたように目を見開く山城の顔。
「、暁月くん?!」
ばっ、と立ち上がって俺と距離をとる。
「ん?」
「な、なな、なにし、」
「ん?キス、しようとしたんだけど」
「な、そ、そういうことはっ、相手の了承を得てから......っ...」
「ああ、はいはい、ごめんなさい」
「......っ」
どうやらそうとうウブなようだ。
そんなとこも可愛い気がするけど。
「あぁ、そうそう。一緒に帰ろうぜ」
それを言おうと思って山城を探してたんだった。

