家を出ると、直ぐに冷たい空気が頬をなでる。
「...さむ」
そっとマフラーをまきなおす。
すぐに神楽を抱きしめたいが、神楽の家まではまだ少し遠い。
会いたいと思いつつ歩き続けていると。
「響くん」
前から黒髪をなびかせた少女が走ってきた。
彼女は俺にぶつかるように抱きつくと、ふわりと笑った。
「...神楽、なんでここに...」
「迎えに来たの」
そっと体を離し、乱れた髪を直す神楽。
......嬉しいんだけどさ。
「...嬉しいんだけど、もう来ないで。今後は俺が迎えに行くから」
「...どうして?」
少し落ち込んだような神楽に、言い方を間違えたと後悔する。
「えーと。...神楽に喜んで欲しいし、ここに来るまでで変なやつに捕まったらアレだろ......心配なんだよ」
そういうと、神楽は目をぱちくりさせて。
幸せそうに笑った。
「...えぇ。おとなしく待ってることにするわ」
俺は身をかがめて。
ふふ、と笑っている神楽にキスをした。
「......?」
「......これからも、よろしく」
「...」
神楽は何も言わなかったけれど。
小さく頷いて、俺の手を握った。
俺も手を握り返して、2人で並んで歩く。
...これからも、こうやって2人で。
歩んでいけたらいい。
何度も間違うだろうし、ぶつかるだろう。
神楽を泣かせるかもしれない。
けれど、もう二度と。
この手を離さないと、そう決めた。
下を見ると、朝の綺麗な明るい太陽によって出来た、2人の影が薄く重なっていた。