「山城 神楽って、いる?」

放課後になるなり、早速山城のいる教室へと向かった。

そう言った俺にかけられたのは、かん高い声。

「わぁ、ひびくんじゃーん。あたしに会いに来たんじゃないのー?」

声の聞こえた方に目を向けると、ケバケバした化粧を施した茶髪の女。

...見たことある、気がする。

残念ながら思い出せないけど。

「悪ぃな。お前じゃなくて、今日は...」
「私が、なんですか?」

俺の言葉に重なるように聞こえた声。

凛とした、透き通るような。

その声の主は、茶髪の後ろに立っていた。


日本人形のように整った顔に、クセのない、長い黒髪。

山城 神楽、その人だった。

「...山城 神楽、って、言いましたよね」
「......あ、あぁ。そう、アンタ」
「なんですか?」

茶髪を押しのけて、少女の目の前に立つ。

「...ちょっと、い?」
「.........」

顎で廊下を示すと、彼女は少しだけ間を空けてから、小さく頷いた。





二人で廊下を進み、空き教室へと向かう。

教室に入り、ドアを閉めるなり山城が話し出した。

「...なんですか?用事なら早く終わらせたいのですけど」

そう告げられた声には一切の震えもなく、視線はわずかにしたを向いている。

「......男が女を呼び出す理由なんて...一つしかなくない?」
「...?」

彼女はそこでやっと少しだけ首を傾げた。

じっと彼女の目を見つめながら、

「...俺と付き合ってください」

そう言って手を差し出す。

手を出したのは、そうしたほうがウケがいいように思えたから。

「............」

山城の目が見開かれる。

おぉ、新鮮。


これからフラれるのだろうと思っていても、なんとなくいいかと思ってしまう。

「......ゎ」
「?」

少しだけ開かれた山城の口元。

そして。

「......は...?」

俺の手に小さな手が重ねられた。

「...わ、私で、よければ...」

そんな、消え入りそうな声で告げられた、OKの言葉付きで。