ドアを開けると、中央のテーブルに腰掛けた彼がいた。


彼の他には、誰もいない。



彼はずっとうつむいていたのか、ゆっくりと顔をこちらに向けた。


そして、私を見て嬉しそうに笑った。



「.....................神楽」


その声は、泣きたくなるほど優しかった。

泣かないように歯を食い縛ってから。


「.........なんでまだいるんですか」


もう夜なのに。

なんでまだいるの?


「...待つっつったじゃん」


「......どうして?」


...どうして。

どうしてそこで、また笑うの?


「なんでこんなに待たせたんだって、怒ってもいいのに。

来ないって決めて、帰ってもいいのに。


あのとき一緒にいた彼女と、一緒にいたらいいのに」






言ってしまってからハッとする。

なんでまた私は悲観的に...。


「............神楽」

彼の顔が見れない。


耳を塞いでしまいたかったけれど、思いとどまる。


「......だって、来てくれたじゃん」


「それでいいよ」


っ!!!!



「バカなんじゃないの!?」

なんで、なんでこんなに、あなたは。


「なんで私を信じようとしてくれるの!?」

「......」

「散々無視して、酷いことしたのに!私のことなんて嫌いになってくれていいのに!」

「...ちげーよ、神楽」


どくん、と胸がなる。


「...」

「俺は、信じようとしてんじゃなくて」

「信じてんの」


「...............」



彼の言葉は、嘘だなんて思えないくらい澄んでいて。


「だから、話聞いて?」

私は、静かに頷いた。


頷くことしか、できなかった。