響くんを無視し続け、一週間がたった。
相変わらず、彼からの電話とメールは止むことがない。
どうでもいいなら放っておけばいいのに。
罪悪感でもあるのかしら。
けれどこの頃、メールの内容が変化した。
『言い訳しない』
『俺が悪かった』
『だから話をさせて』
『本当のことを聞いて』
もしかしたら、彼からの連絡が止むことなんてないのかもしれない。
私はスマホの電源を落とすと、帰る準備を始める。
...............わかってる。
このままじゃダメなことくらい。
でも、じゃあどうすればいいの?
教科書を全部詰めて、最後にスマホをカバンに入れると教室を出た。
彼を許して、元に戻って?
そしてまた.........繰り返すの?
こんな思いを、また?
ううん、むしろ...戻れるわけがない。
でも、じゃあ、私は?
ぼーっと考えながら校舎を出て家へと歩く。
私は...どうしたいの?
「......私、は」
........................無理だってわかってる。
自分で、わかってるはずなの。
けど......できることなら。
もう一度、近くで彼に笑って欲しいなんて。
彼の声が聞きたいなんて。
未練がましいにも程がある。
わかってる。わかってるわよ。
私から切り離したことくらい。
でも。
自分で考えながらイライラしてくる。
はっきりしない自分にイライラする。
だから、周りが見えていなかった。
「あっれ、カワイイ子みっけ〜?」
そんなどこにでもありそうなクサイセリフを吐きながら私の目の前に3人の男が立つ。
「ねぇ、今ひとり?だったら俺らと遊ばない?」
...............めんどくさい。
今はほっといて欲しいのに。
「なんかイライラしてるみたいだしさ、話聞くよ〜?」
「...イラついてるのがわかるのなら話しかけないでくれるかしら」
「うっわ、こっわ〜。なになに、なんでそんなにイライラしてんの〜?」
「俺らが慰めてやるよ?」
左の腕に手がかけられる。
そのまま撫でるように触られて不快感が募る。
「離してくれるかしら...」
「まぁまぁ、こっちおいでよ」
ダメだ。
この手の人たちには話は通じない。
諦めて手を振りほどこうとするけれど離れない。
「?抵抗してんじゃねぇよ!こっちこいっつの!!」
「っ!」
あ、いけない、連れてかれる...。
そう思った瞬間、泣きそうになった。
「離して............っ!」
「離せよクズども」
声を上げた時、ふわりと知っている香りに包まれる。
「......悪い、遅れた」
「あ!?んだよてめぇ!」
「...こいつは俺のなんだよ...離せっつってんだろうが」
「...んだよ、行こうぜ」
「っ、チッ」
私を抱きしめている人が睨むと、3人の男は舌打ちをして逃げていった。
...............なんでここにいるの?
「...」
なんで助けてくれたの?
「.........大丈夫か?神楽」
響くん............。
「.....................」
私が何も言えないでいると、響くんはゆっくりと私を離した。
すっと私の前に回って、頭を撫でた。
「...怪我がないならいい。...あいつらもう行ったみたいだけど、気をつけろよ」
「...............」
ありがとうの一言も言えない。
小さく頷くことが精一杯で。
「......抱きしめたりして、ごめん」
それだけ言って、彼は歩いていってしまった。
彼の背中を見つめていると、自然と涙が流れてくる。
ぽつぽつと落ちるそれは、地面に吸い込まれて消えていった。
なんで、どうして。
どうして優しいところを見せるの。
どうして最後まで幻滅させてくれないの。
響くんのせいで。
...ほら、理解しちゃったじゃない。
もう戻れないことも。
もう一度なんてないことも。
...まだ私が、彼を想ってることも。

