響くんの浮気を見てから、響くんは私に会いにこなくなった。


そりゃあそうよね。


好きでもなかった、’’彼女’’というだけの存在。

それに、私から言った別れの言葉。


けれど、会いにこないくせにメールは一定の時間を開けて送られてくる。


内容は

『あの人はなんでもない』
『不安にさせてごめん』
『ちゃんと話し合おう』


そんな言葉ばかり。


私は返事を返すことなんてしなかった。



彼の話を聞かずに逃げ出したのは私。

真実を知りたくなかったから。




「......山城さん?」

突然肩を叩かれて、慌てて振り返る。

「あ...ごめんなさい。何度も呼んだんだけど」


この子は.........確かクラスの委員長をしている子。


「...いえ、気づかなくてごめんなさい。何かしら?」


聞くと、彼女はドアの方を振り返って、

「その、山城さんに会いたいって人がいて」

「?」


私は彼女にお礼をいうと、ドアの方に向かった。


会いたい人?

まさか......響くん?


でもそんなはずはない。

だって彼は私なんか好きなはずないんだもの。



きっと、なんとも思ってない.........


と、そのとき目の前に紅が広がった。


「............え?」


その紅の正体が深紅の薔薇だと気付いて、目線を上げる。


そこには、響くんといつも一緒にいる男の子。

あのとき、声が聞こえた人。



「...どうぞ、...山城さん。受け取って?」

「...............どうして?」

「え、いや、その............」


何故か問うと急に慌て出す彼。

...その目がひたすらに窓の向こうに注がれている。



反応から見るに、おそらくこの薔薇は彼からじゃない。


そうなると。


「.........響くんね」

「!?いや、そのっ............ごめん!」


彼は薔薇を私に押し付けると、何故か謝った。


「............え?」

「その、響はなんでもないんだ!!俺があいつに頼んだことで...!」

「........................」


何を言ってるのかまったくわからない。


「浮気をしろって?」

「いや、そうじゃなくて...その、合コン......に、参加してくれないかって.........」


「そう。でもその後のことは彼の意思でしょう?あなたは関係ないんじゃないかしら」

「でも、元凶は俺で.........」


なおも言い募る彼の言葉に返事を返すことすら億劫になってきた。


「......元凶があなたでも、行動したのは彼。隙が多かったのも彼。......私を裏切ったのも、彼。」


口に出したその言葉はとても淡々としていて、自分でも恐ろしかった。


「.........これも、返すわ」


私は薔薇を見つめて、花束から2、3本引き抜き、花束の方を彼に返した。


「え、でも響はすげぇ反省して......っ」

「響くんには、さよならとだけ伝えてください」

「ちょ、まっ............」



そのまま話を聞かず教室に戻る。








私たちはもう、戻れない。


あんなに心が浮き立つような感覚も、もうないんだろう。

私は胸の痛みを誤魔化すように、薔薇に口付けた。