知りたくなかった。
知らなければ、幸せでいられた。
最初からおかしかったのよ。
私の好きな人が、それまで何も無かったのに告白だなんて。
急に、恋人だなんて。
それまでは私を見てすらくれなかったのに。
’’人形姫’’
そう呼ばれていた頃に、戻りたい。
そしたらこんなに悲しくない。
人形のように、何も感じなければ。
胸が痛いこともないのに。
彼に裏切られたことが、こんなに苦しい。
彼の’’神楽だけ’’という言葉が嘘だって。
それが、すごく苦しい。
だって、気づいちゃったの。
私、
響くんに、好きって言われたこと、
1度も、ない............。
あぁ。
本当に人形になってしまえればいいのに。
「神楽!!」
手をつかまれる。
見なくても、声や手で響くんだとわかる。
でも、今は彼の顔を見られない。
「神楽違う、あの人はなんでもな...」
「もういいわ」
彼の言葉をさえぎって告げた声は冷えきっていた。
自分でも、こんな声が出せるのかと驚いた。
「...神楽?」
「............わかったから。...もうわかったから。全部、わかったから」
「!違うっ!神楽、誤解だ、ホントにあの人はっ」
「言い訳なんて聞きたくないです」
最後の敬語は故意にしたもの。
彼との、距離を作るための言葉。
それを、彼に示すための言葉。
「...神楽...?」
「......嘘だったら、許さないって、昨日言いましたよね」
「っ、だから嘘じゃな」
「さようならですね」
私の口からこぼれる言葉は、どれも冷えきっていた。
抑揚のない、氷みたいな声。
.........人形のような。
「......終わりです」
「神楽待っ」
「離してください」
手を振り払って、歩き出す。
彼の顔は、一切見なかった。
「神楽!」
彼の声が聞こえたけれど、聞こえないふりをして歩き出した。
...............終わりなんだ。
そう思った時、私には何の感情も残っていなかった。
ただあるのは、喪失感だけ。
だから、とめどなく流れる涙が、悲しみなのか怒りなのか、それ以外なのか。
まったくわからなかった。

