母さんに買い物を頼まれたのは少し前。
私は近くのスーパーに行こうとすると、どこかで聞いたような声が聞こえてきた。
その声が、響くんとよく一緒にいる男の子の声だと気づいて、彼も近くにいるかもしれないと思った。
なんとなく、会いたいなと思って、声のした方に歩いていく。
けれど、それがいけなかった。
こちらに歩いてくる響くんの姿を見つけて、かけよろうとする。
「響く......」
けれど、そこで彼の手を女の人が掴んだ。
ふわふわの髪をした、綺麗な女の人。
「...............え?」
響くんと親しそうに話す。
それに対して、少し嫉妬してしまった。
彼は私の彼氏なの。
そう言いたくなって、歩み寄る。
「..................、」
と。
「......え?」
女の人が背伸びをして、響くんとの距離を縮めた。
その距離.........ゼロ。
有り体にいえば、キスをした。
響くんがよく私にすることを、女の人は響くんにした。
どうして。
そう思ったけれど、唇が離れた後、響くんが彼女の肩に手をかけて、なにかつぶやく。
すると、女の人は擦り寄るように響くんに身を寄せた。
少し困ったような響くん。
「あの二人、美男美女!」
「本当!絵になるねぇ〜」
そんな声が隣から聞こえた。
道行く人に恋人だと思われる2人。
..................嘘だと思いたい。
浮気だなんて、思いたくなかった。
けれど。
見てしまった。
「..................」
’’嘘だったら、許さないわ’’
昨日私が言った言葉、覚えてる?
...............嘘だったのね。
「......響くん」
声に出すと、ふと彼がこちらを振り返る。
「っ...」
小さな声ですら、彼が反応してくれることに、いつもなら、嬉しいのだろうけど。
...............今は、ただただ、何も感じない。
私を見つけて目を見開いた彼は、何か言ったように見えた。
けれど私は、それを聞かずに、逃げ出した。
彼と、会いたくない。
彼から何も聞きたくない。
さっきは会いたかったのに。

