「……はいはい。
転びそうになったら
手、放すからね?」

茶化すように。
笑ってみせた。

そんな僕に、君は
頬を膨らませ、非難の目線。


繋がった手は
手袋のせいなのか
あたたかさを、感じられなかった。





「月が、綺麗ですね」

月を見上げて呟いた。
ちょっとした、意趣返し。
君が意味ありげな事を言ったから
僕だって、少しくらい。

意趣返しと、遠回しな告白を。

僕の言葉に君は
きょとんとした顔をして
空を見上げた。


ああ、やっぱり伝わらないか。


君は眼鏡を取り出そうと
コートのポケットに片手を入れて。