『矢井田、あれはどう言う事だと思う…?』
少し低い声。思わず体に響いてしまう程だ。目を丸くした小柄な男性は、慌てて口を開いた。
『はっ、どう言う事といいますと…仲睦まじいと仰いますか…』
オドオドとした態度に、舌を跳ね上げる音が部屋に響き渡った。
『申し訳ございません、馨様。』
矢井田の深々と頭を下げるその先に、花蓮の継母に当たる存在の、馨がいた。スラッとした顔立ち、体型、それから艶めく黒い長い髪を綺麗に纏めた、薄化粧の美しい女性だ。
しかし、その馨には笑顔が見られなかった。馨の見つめるその先には、座りながら談笑をする花蓮と智。赤く染まるカーテンの隙間から、暫く2人を見下ろしていたのだ。
2人が親しい姿が何とも気に食わない様だ。
『智…あの時にここに置いておくのを許さなければよかったのか…?』
ボソリと呟くその声は、まるで猛獣の唸り声の様に恐ろしい物であった。
左手には皺の寄ってしまったカーテン、口からはギリッと激しい音がこぼれた。まるで苦虫を食い潰したような表情と共に…。
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