『花蓮様!そんなところに行っては行けません!!怪我をされてしまいます!!』

あれから五年、そう、花蓮が20歳になって間もない時。智は屋敷に暮らしていた。あの時と変わらない、透き通った声が庭に響いた。

『大丈夫よ!それより智!良い加減その敬語どうにかしてよね!!私は貴方をこの家に使用人として招き入れたわけじゃないわ!お義母様がそうしたけれど、私は貴方のことをそう見てないと何回言ったらわかるの!!』

ちょっぴり高い木の枝の上から、大きな声で花蓮は言い放つ。でも!と声を上げる智に、また大きな声ででもじゃない!と声を荒げた。

『そんな事を言ってると、もう智とは口効いてあげなくなるわ…きゃっ…!?』

足を滑らせ、木から落ちてしまうも、真下にいた智が華麗に花蓮を受け止めるが、そのまま地面へと倒れ込んだ。

『っててて…、さ、智!!大丈夫?怪我はない!?』

『った〜…!だから言ったんです!危ないと!!俺は大丈夫です。花蓮様は怪我は…』

少し声を荒げた智に、驚く花蓮。それも当然、智は屋敷に来て以来、徐々に笑う様にはなったが、涙と怒りを露わにする事は一切なかった。
そんな智が声を荒げたのだ。

『無いわ。ありがとう…』

『よかった…、もう二度とこんな真似はしないでくださいね!』

今だに智の膝の上に跨る花蓮。言うまでもないが顔が近い中、ふにゃっとした表情で笑う智に、花蓮は顔を赤らめた。
そんな甘酸っぱいシュチュエーションの中、少し離れたところで咳払いが聞こえた。そう、花房である。
慌てて立ち上がる花蓮と智を、少し困った様に彼は見つめていた。