とある国の小さな屋敷に生まれたお嬢様がいた。体は強くないが、心の優しい持ち主で、お転婆でとっても力強い子だった。
年齢は20歳ほど。ある程度の知性はあるが、頭はよくない。言葉遣いだって、場所を弁えるが、普段は到底綺麗と言えない物である。
彼女が好きなことは食べる事、歌う事。明るい性格ゆえに、人と関わることが大好きだった。
そんな彼女が15歳の時、とある青年が屋敷の近くでフラフラと歩いていたのを見かける。履物はなく、ボロボロの衣類に包まれて、顔色も相当悪かった。
使用人は目を背けたが、彼女は違った。
『どこから来たの?』
その問いかけに虚ろな目を向ける青年は、フイと顔を背けた。道のない道へと足を踏み入れようとするが、力が入らずに、崩れ落ちてしまった。
彼女は直様、使用人に声を掛け、青年を屋敷へと運ばせた。
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水の零れ落ちる音、窓から零れる朱い光、良い香り。霞む視界の中、目を凝らして必死に焦点を合わせる青年。
『あ!目を覚ましたのね!』
何処かで聞いたことのある声だが、全く思い出せやしない。ここはどこだろう。青年はそういったことを考えながら口を開くが、声が言葉にならない。
『ここは街外れの小さな屋敷よ。私は花蓮。貴方の事は一先ず置いといて、これを食べて頂戴!』
小さなお鍋からお皿へと移して、青年の方へと持って行く。
ペースト状の野菜スープだ。
良い匂いが青年の食欲を駆り立てるが、体が一行に動かない。
『体が動かないの?飲み込める?』
小さく頷くと、彼女は青年の口元へとスプーンを運んだ。とても温かくて、青年は涙を流しながらゆっくりと食べ、お皿を空っぽにしてしまった。
『相当お腹が空いていたのね…。けれど、これ以上食べたらお腹に負担がかかってしまうかもしれないわ!とりあえずお水を飲んで、もう一眠りしなさい。』
コップさえも近付けてもらって、少しだけ口に入れてくれた。そして、彼はまた、眠りの世界へと旅立った。
