アッちゃんは私とテッちゃんが生まれてから2年後に八木家に誕生した男の子だ。名前は敦也(あつや)君。兄弟が居なかった私は、自分の弟のようにアッちゃんに接していた。

「お兄ちゃん、里奈ぁ、待ってよぉ」

「ほら、テッちゃん! 早くしないとアッちゃんに追いつかれちゃうよ」


「べつに追いつかれたって良いじゃん」

「ダメ! アッちゃんはまだ年少さんなんだよ。年長さんの私とテッちゃんのほうが速くなきゃ!!」

当時の私は年上というプライドからか、アッちゃんに追いつかれるのが嫌だった。今にして思えば、アッちゃんが可哀相なのだが、あの頃の私はとにかくお転婆だった。



「敦也が可哀相だよ、待ってあげよう」

「もう……じゃあ、テッちゃんだけ待ってれば。私は先に行くからね」

そう言うと、私はアッちゃんを待つテッちゃんを置いて自分だけ階段を下り、屋敷の庭へ出る事ができる大きな部屋に入る。

そして、庭へ出るために部屋のドアを小さな手で力いっぱい開けると、緑広がる広い庭へと駆け出した。