それでも、やはり子供なのでアニメを実際に見るとその話の世界に入り込んでしまい、アニメを見終わった時にはテッちゃん達の部屋で『ドラキュラ時計』ごっこを始めていた。


「アッちゃんがお化け屋敷のお化けね。私は女の子の莉音(りおん)ちゃんで、テッちゃんがドラキュランね」

莉音とは『ドラキュラ時計』のヒロインで、ドラキュランは主人公の名前である。



「なんでー? 僕お化けなんて嫌だよ」

「しょうがないでしょ。莉音は女の子だから私しかできないし。それに、お化けが出てこないとお話が進まないもん」


「やだやだー」

まだ5歳のアッちゃんは何か嫌な事があるとすぐに泣き出しそうな顔をする。



「もう、すぐそうやって泣くんだから。だから幼稚園の子は嫌なのよ……」

「ぐすんっ……泣いてないもん」


「泣きそうじゃん」

「だって、里奈がお化けやれって言うからぁ、うぅ……」



すると、そんな私とアッちゃんのやり取りを黙って見ていたアッちゃんが口を開く。

「じゃあ、俺がお化けをやるよ。敦也がドラキュランをやりな」

「うん……ありがとうっ! お兄ちゃん」


テッちゃんが敵役を引き受けてると、アッちゃんはすぐに泣き止んだ。

アッちゃんはこうやっていつも、弟であるアッちゃんが嫌がる事を進んで引き受ける。私もアッちゃんの事は弟のように思っていたけれど、実際に弟が居るテッちゃんの弟を思う気持ちや、実際に何かをしてあげるという行動力のようなものは、私にはさすがに真似できないものがあった。