浅葱の雫

私は言われた通りに彼の居る部屋にいく。


「トシちゃーん!!」


襖の前に立つと思いっきり開けた。



「先に声掛けてから開けろ!!」



予想通り怒鳴り声が耳をつんざく。

煩いったらありゃしない。



「もう、久しぶりに会えたんだから少しは歓迎してよね」

「誰がするか、バカ雪」



ピキッと私の額に青筋が浮かぶ。


ああ、ダメよ雪、貴方はもう十四歳なんだから大人の余裕を持って。



「はぁ、相変わらず子供ね、トシちゃんは」

「ああん?ガキに言われたかねぇンだよ」

「私はもうガキじゃないもん。大人よ」

「俺よりガキの癖してなに言ってンだか」


ガキガキ言ってるけど、四つしか変わらないじゃない。

私は不服そうに眉を歪めた。

だけどすぐに笑顔を浮かべる。


「ね、トシちゃん、私が居なくて寂しかったんでしょ?」

「んなワケあるか。テメーが居なくて清々したわ」


その頰が微かに赤くなった。

ったく、素直じゃないんだから。


「寂しかったのよね、わかったわ。別に照れなくてもいいのに、トシちゃん可愛い♡」

「勝手に自己完結してンじゃねぇ!!」

「あら、違うの?」

「誰も肯定してねぇし!!」


なーんだ、つくづく意地っ張り。


「はっ、帰ってくるならもっと美人になってから帰ってこいよな。ま、髪だけは褒めてやるけどよ」

「余計なお世話よ」


私はトシちゃんの股間を蹴り上げる。

痛いのかのたうち回るトシちゃん。

うん、いい気味。


「ってぇ、おい雪!!テメーなにしてくれてンだよ!!」

「自分がちょーっとモテるからって調子に乗るからよ」

「ちょっとじゃねぇ、大分だ」

「自意識過剰ね」


確かにトシちゃんはモテる。

それも半端ないくらいに。

いつも読まされる書簡に書いてあるのは“トシ様愛してる”とか“歳三可愛い♡”とかばっかり。

私はチラリと彼の顔を覗き見る。


まさに眉目秀麗とはこの人のことだと思う。

思うんだけど、


「どうした、じっと見つめて。俺様に惚れちまったか?」


この自意識過剰さえなければいいのに。


「ほんっと、あんたほど性格で損してる人って早々居ないわよね」

「けっ、その言葉そっくりそのままお返しして差し上げるわ」

「じゃあ送り返すわね」

「マジで可愛げねぇ女」


可愛げなくて結構です。