奇術師についてはこれぐらいかな。
他にある?


「……デルタってやつ知ってる…?」


ああ。この国じゃ有名だよ。
クリスタル研究所の副所長だ。
彼はよからぬことを考えてるよ。


クリスタルは、
あるだけで戦争が引き起こすから、
所持することは禁止されてる。


だから世界戦争終戦後、
消滅させようとした。


でも誰にもできなかったんだ。


あの奇術師ならできたかもしれない。
でもいなくなってたからね。


だから仕方なく、
研究所に保管することになった。


でも、少し考えればわかることだけど、
クリスタルを持てば最強ってことは、
研究所の所長になって
クリスタルを完成させれば、
自ずと世界の支配者になれるんだよ。


デルタ副所長の狙いはきっとそれだ。


そのために、
奇術師から子どもを奪って
その子にクリスタルを探させた。


「俺…思ったんだけどよ…。その子どもには名前とかねえのか?」


ない…と思う。
そういう情報は聞いたことない。


でもあだ名的に『片割れ』とか
そういう呼び方をされてる。


研究所のやつらが欲しいのは、
どちらかというと
クリスタルに触れるほうだから。


感知できる方に、
わざわざ名前をつけるほどの
愛情を持ったやつはいないさ。


「なんだか…かわいそうね…。」
「ああ。なんか俺ムカついてきた。人間のこと機械みたいに扱いやがって…。」


研究所のやつらはみんなそうさ。
特に奴隷なんて、
機械にも見られてないよ。


クリスタルを運ぶための
手袋ってところかな。


「…ねえ、どうしてあなたは、研究所にとって都合が悪い人間なの?さっき港で言ってたわよね…?」


ああ。
こうやって情報を流すからさ。


「なんで身の危険がわかってて、情報を流すんだ?」


……僕の妹がね。
奴隷として連れていかれたんだ。


「「!?」」


僕は頭がいいだけが取り柄だったから、
肉体的な戦いはできなかった。


だからこうやって
ちまちまと情報を流して、
研究所にとって不利な世論を
作ろうとしてるってわけ。


まあ、みんな研究所が怖いから
僕の味方なんてしないけどね。


情けないだろ?
笑いたきゃ笑っていいよ。
そっちの方が僕はラク。


「…笑わないわ?」


どうして?


「わたしも、自分の家族を守れなかった。デルタに…目の前で殺された…。」


!?
デルタに!?


「ええ。だから、あなたの気持ちはわかるつもり。」


……敵討ちって、それのため?


「うん。」


そうか……。
………………。


「ん?どした?腹でもいてえのか?」