《コツコツコツコツ》

長い廊下に、
私の足音がこだまする。
この静寂の中で、
私だけが音を立てている。
心地いい。
この地位に来るまでの努力は、
誰にも負けない自信がある。


長い廊下の先には、ドアが1つ。
その部屋のガラスケースに
クリスタルが保管されている。
現在保管されているのは5つ。
今から1つ加えられる。


クリスタルが入ったガラスの前には
リークがいた。


「おお、デルタか。」
「ただいま帰りました、リーク様。」


リークは、
このクリスタル研究所の所長である。
サハールの民から貪る税金で、
高級料理を毎日食べているそいつは、
ブクブクに太っていた。


私はこいつが嫌いだ。


大した能力もないのに
親のコネを使い今の地位を獲得した。
こんなやつが
クリスタルの力を手に入れるなんて
私は許せなかった。


ークリスタルは私のものだ。


「で?デルタ。クリスタルは?」
「…はい、いま奴隷の手でガラスケースに移しているところであります。」
「7つ目は見つけたのか?」
「…いえ。6つ目はガルシアの森で発見したのですが、7つ目は見つかりませんでした。申し訳ありません。」


私は軽く頭を下げた。
リークは、
鼻息をふんっと短く吹き出し、
ぼやいた。


「本当に探したのか?」
「…それは、どういう?」


私はいらっとした。


「だって、『片割れ』が言ったんだろ?パラマに7つ目のクリスタル、つまりクリスタルコアがあると。」
「はい。しかし、隅々まで探しましたが、どこにも見当たりませんでした。」
「……そうか。」
「ですので、パラマの国民をひとり残らず捕獲してきました。今日からクリスタルコアについて尋問を始めます。」


私は、したくもない一礼をして、
部屋から出ようとした。


「待て、デルタ。」
「はい、なんでしょうか。」
「『片割れ』のもう一人は、まだ見つからないのか?」


ー……


「…はい。全力をあげて探しておりますが、目撃情報すらありません。」
「わかった。はやく6つ目のクリスタルをもってこい。…まあ、クリスタルコアがなければ、クリスタル同士はくっつかないがな。」
「…はい。」


私はその部屋をあとにした。
先ほど歩いた廊下を
逆方向に歩いていくと、
向こうからガラスケースを持った
兵士が一人、歩いてきた。
彼はぺこりと一礼して、
先ほどの部屋に歩いていった。


私は自室に向かった。


「デルタ様。」


その途中で、
男性の声に呼び止められた。
後ろを振り返ると、
そこには『片割れ』がいた。


「どうした。」


私はこいつが苦手だ。
クリスタルを感知できる
唯一の存在だから
ここに置いているだけであり、
いずれ科学が進歩したら
こいつも用済みだ。


「クリスタルコアが、サハールに近づいてきています。」
「なに!?」


ー誰かが持ってきたというのか?


しかしそれは、おそらくだが、
〈彼女〉が
サハールに向かっていることを
意味している。


ーだが、どこでクリスタルコアを?


「…デルタ様。」
「なんだ?」
「クリスタルが完成したら…約束通り、家族に会わせてもらえるのですよね?」
「ああ。保証する。」


私は即答した。
そして自室ではなく
管制塔に向かった。