母との電話を切った後、ベッドの上で思い出していた。
『言いたいことがあるなら、はっきり言いなさいよ』
カフェの前で彼に縋っていた彼女の痛々しい声が蘇る。周りの目も気にせず、あんなにも必死になっていた彼女が彼を思う気持ちは本物なんだろう。
私も昭仁に気持ちをぶつけることができたらよかったのだろうか。
仕事だと嘘を吐いて他の女性と会っていた彼に、何の隠し事も無く本音をぶつけることができたとしたら。
今まで昭仁と喧嘩らしい喧嘩をしたことはない。無意識に衝突を避けていたのかもしれないけれど、それが本当に正しかったのだろうか。
知らないうちに騙されるぐらいなら、いっそお互いの気持ちをぶつけ合って別れた方がすっきりしたのかもしれない。
たとえ喧嘩になったとしても。
はあ……と大きく息を吐くのと同時に、スマホが震え出した。
手に取る前に胸がざわめいてしまうのは期待なのか、緊張なのかわからない。だけど、あんな状況を見てしまったというのにまだ縋ろうとしている自分が確かにいることに気付かされた。
スマホのディスプレイに表示された名前は田舎に居る妹、花奈(はな)。メールを開いてすぐに飛び込んできた言葉に顔が綻んだ。

