「そうね、だけど大ぶりでしょう? 本当はあっちのトルコキキョウのピンク色があれば欲しかったのだけど……」
「わかりました、少し探してきますね」
「あ、いいの。さっき彼女に探してもらったんだけど、ピンクは無かったみたい」
「そうでしたか、失礼しました、ではラナンキュラスでよろしいですか?」
「ええ、いいわ。三本頂こうかしら、それから他にも……」
二人の会話は自然で、心地よいほどテンポよく進んでいく。岩倉君のエスコートで店内の花を見て回る佐久間さんは、私が対応していた時とは一変して機嫌がよさそう。
私なんか置いてきぼりで、佐久間さんは何種類かの花を纏めてお買い上げ。店を出て行くまで岩倉君に見送られて、ご満悦な顔で帰っていった。
「ありがとうございました、助かりました」
店内に戻ってきた岩倉君に、早速お礼を言ったのに澄まし顔。聴こえていないはずはないのに無視してカウンターの裏へと消えていく。
何だか、ちょっと感じ悪い人かも。
「大隈さん、ゴメン、お会計お願い」
接客中の高杉さんに呼ばれて、慌ててカウンターへと戻る。高杉さんに続いて仲岡さんにも会計を頼まれて少しバタバタとしたけれど、新しいお客さんも来る気配はない。

