今度こそ、練愛


「いらっしゃいませ、佐久間(さくま)様、今日は何をお探しですか?」



混乱する私に向けて、ぽんっと投げ掛けられた軽やかな声。振り向くとずいぶん若い男性がにこやかな笑顔で、私が対応していたお客さんへと歩み寄ってくる。



よく見ると白いシャツに黒いパンツ、エプロンまで着けて胸には名札がぶら下がっている。
私と同じ、この店の従業員だ。
今日夕方に出社するという、もうひとりの従業員とは彼のことだったんだ。



「岩倉(いわくら)君、久しぶりね。今日はいないのかと思ってたわ」

「すみません、今日は訳あって今頃の出社なんですよ、佐久間さんもお元気そうでなによりです」



なんだか親しげに話しているけれど、佐久間さんはお得意様だろうか。店内の照明に照らされた岩倉君の、くるふわっとした髪と白い歯がキラリと輝いて爽やかな青年といった雰囲気を醸し出している。



「ピンク色の花が欲しいのだけど、あの花は何かしら?」



佐久間さんは私にしたのと同じ質問を岩倉君にも投げかけた。
答えられるのかと見守っていると即答。



「あの濃いピンクはラナンキュラスですね、綺麗な色でしょう? 活けた時に挿し色になって華やかですね」



にこりと笑顔で答えて、まるで勝ち誇ったような笑顔で私をチラ見する。



私の方は見なくてもいいでしょう?
食いつきそうになるのを、ぐっと堪えた。