彼女の顔がさらに赤く染まっていく。
華奢な腕の先で拳を握り締めて、ふるふると肩を震わせて、泣き出すのではないかと思うような潤んだ目で彼を見据えて。



「何なの? 悪くないってどういう意味よ? 十分過ぎるでしょう? これ以上何を望んでるの?」



開いた口から怒涛のように溢れ出す言葉たちは
耳にちくちくと痛みを感じるほど。



「何にも望んでない、もう終わりだ」

「はあ? そんなこと、私は許さない……」

「勘違いするな、これは契約だろ? もう終わりにしよう」



彼女の言葉を抑えつけるように放った彼の声は凍えるように冷たくて、少し離れたところで見ていた私の背筋まで凍りつきそうだった。



完全に言葉を失くしてしまった彼女は目に涙を溢れそうなほど溜めて唇を噛んでいる。悔しさと悲しみを顔いっぱいに滲ませて、涙が零れ落ちないように懸命に耐えているのがわかるから痛々しい。



そんな彼女を見ても、彼は何ら動じることなく歩き出す。
周りで静かに見守っていた観客たちも、彼女に同情の眼差しを残して散らばっていく。
私も彼女に背中を向けた。




「バカ!」



彼女の声にならない叫びが胸を締め付ける。




ふと気がついた。
胸の奥深くへと沈みかけていた私の気持ちは中途半端にぶら下がったまま。まだ、手を伸ばせば届きそうな場所を漂っている。