もうすぐ最終電車が到着する。
「福沢さん、もう少し急いでもいいですか? 電車に間に合わないから」
「あ、そうだね……、あれ? ごめん、ちょっとだけ待って」
堪らず声をかけたら、福沢さんは焦ったような声を上げて足を止めた。
「どうしたんですか?」
「いや、鍵が無いんだ。おかしいなあ……」
あろうことか福沢さんは歩道の真ん中で、ごそごそとポケットやバッグに手を突っ込んで探し始める。
こんな時にやめてよ……
「いつも入れてる所にはないんですか? いつ使ったんですか?」
「うん、いつもバッグのここのポケットに入れてるんだけど……、今朝鍵を閉めて入れたと思ったんだけどなあ」
焦る私のことなど気にしていないのか、ついには腕を組んで考え込む。思い当たるところを描くように時折目を閉じたり、首を傾げたり。
腕時計を見たら、さすがにもうヤバい。
「福沢さん……」
「あっ、さっきの店で落としたのかもしれない。もう閉まってるかなあ……大隈さん、悪いけどついてきてもらっていい?」
「え、でも……」
「お願い」
手を合わせて頭を下げる福沢さんを突き放すことができず、しぶしぶ一緒に店へ戻ることに。
もう最終電車は出てしまった。
タクシーで帰るしかない。

