「大隈さん、寂しい時はいつでも僕に言ってよ、絶対に我慢なんてさせないから」
テーブルに身を乗り出した福沢さんは甘ったるい声を発して私の手を包み込んだ。今にも微睡みそうな目を細めて、何かに酔いしれているような顔。
どうやら彼は、何か勘違いしているらしい。
「ありがとうございます、でも私は全然寂しくないし我慢もしてないです」
きっぱりと言いきってあげたら、福沢さんは眉間にしわを寄せて悲しそうな顔。同情なんてするものか、男のくせに泣き落とそうなんて気持ち悪い。
握っている手の力が抜けたから、ひょいと手を引っ込めた。
あまりのしつこさに苛立ちが増幅してくる。
そんなことよりも、もっと他に話題はないのだろうか。
もう先に帰ろうかな……、と思い始めた頃、木戸先輩が手を挙げて店員さんを呼び止めた。
「何か追加で頼みましょうか、お酒ももう少し飲みませんか?」
みんなに尋ねる素振りを見せながらも、木戸先輩はメニューを広げて適当に注文してしまう。そんな木戸先輩に客先二人がツッコミを入れて、和やかな雰囲気を取り戻す。
ようやく解放された私は、もやもやした気持ちを洗い流すようにグラスを煽った。

