今度こそ、練愛


噂が広まってからも以前と変わらない態度で私と接してくれるのは木戸先輩だけ。他の人は明らかに変わったというのに。


本気で会社を辞めようと思っていた私が、まだ会社を辞めずにいるのは木戸先輩の存在が大きい。



決して恋愛感情はない。これからも好きになることはないと断言できる。木戸先輩は優しいけどタイプではないし、奥さんがいるから。



「んじゃ、お疲れ様でした、乾杯!」



乾杯の音頭を取ったのは客先の担当さん。客先とは大手機械メーカーで、私たちの会社は機械関係の設計を請け負っている。



今日は納入した図面から無事機器が発注されたということで、客先との懇親を兼ねた打ち上げ。と言っても客先二名の男性と木戸先輩と私、計四名のこじんまりとした宴だ。



私を除いてみんな木戸先輩と同じ年齢だから余計な気を遣うことなく、美味しい料理を頂いて久しぶりにほっとできるかも。
そう思っていたのに、お酒が入ると横道へと逸れていく。



「大隈さんはいくつ? 彼氏いるの?」



いい感じに酔っ払った客先担当の質問にうんざり。だけど笑顔を絶やすことなかれ。今は酔っ払いでも、私の会社にとって大切なお客様。愛想良く振舞わなければ。