何日か過ぎた頃、ようやく噂は下火になってきた。
実際にどこまで噂が広まっているのかわからないけれど、興味がなくなったのだろう。完全に消えてしまうことはなくても、他の目新しい話題に取って代わられたのかもしれない。
私は面倒な人間関係を避けて仕事に没頭していた。仕事をしている間は嫌なことを忘れていられるから。
「大隈さん」
ふいに呼びかけられて顔を上げると、真横に木戸先輩が立っていた。仕事に集中していたとはいえ、こんなに近くに来るまで全然気づかなったとは情けない。
「来週の金曜日、空いてる? 客先と先週の仕事の打ち上げ……、懇親会するけど一緒に来てくれるかな?」
来週の金曜日と指定されなくても、私にはとくに予定はない。二つ返事で承諾することをわかっているのか、木戸先輩は余裕の表情。
「わかりました。どこ……ですか?」
「隣駅に最近できた『スパークリング』っていう店、知ってる?」
残念だけど最近ほとんど出かけていないから、最近できた店なら知らない。
「いいえ、知りません。何料理ですか?」
「オーガニックレストランらしいけど……、何料理だろ? 美味しいんだって」
木戸先輩はにこりと微笑んでくれた。

