今度こそ、練愛


数日後、休憩室へ行くと後から木戸先輩が追いかけてきた。
昭仁の同期であり、私と同じ課の先輩だ。



「何か飲む? 好きなの押してよ」



自販機にお金を投入して、木戸先輩はにこりと笑った。ここ最近、社内での突き刺さるような視線にうんざりしていた私には温かい光。
久しぶりに人の優しさに触れた気がする。



「ありがとうございます、頂きます」



ありがたくコーヒーを頂くことにした。



窓際にもたれかかって、ふうっと一息。
温かいコーヒーの香りと木戸先輩にもらった優しさが胸に染みていく。



「かなり疲れてるみたいだな、大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」



きっぱり答えたはずなのに語尾が震えてしまう。



違う、こんなの私じゃない。
私は泣いたりしないはず、昭仁に別れを告げた時さえ泣かなかったのに。言い聞かせるのに鼻の奥がつんとして、胸が締め付けられる。



「気にすんなよ、何か言われてるみたいだけど俺は気にしてないから。事情を知らないで好き勝手言われるのは腹が立つけど放っておけよ」



力強くて優しい言葉に涙腺が緩んでくる。
お礼を言いたいけれど声に出したら、涙まで一緒に溢れ出しそうで唇を噛んで頷いた。