「いいわ、そんなに言うならここで土下座しなさい。土下座して私に許しを乞うのよ、そうしたら許してあげてもいいわ」



笑みを含んだ声は、山中さんではなく私に向けて投げかけられたもの。
坂口さんは私を睨みつけたまま、山中さんの腕を剥がしに来る。山中さんの腕の中で二人の攻防を目の当たりにした私の体の震えは、不思議と収まっている。



「いい加減にしろ、君の思い通りにならないことだってあるんだ、何を言われようと、俺たちの気持ちは変わらない」



強く言い放った言葉に、坂口さんが動きを止めた。唇を噛んだ表情には、悔しさと悲しみが入り混じっている。



以前にも、彼の前で同様の表情を見せる女性を見たことがある。
坂口さんではなかったけれど、上品そうに見える女性は彼にしつこく縋っていた。彼の気持ちが離れてしまっているのに、必死になって引き止めようとして。



私は山中さんの腕を、そっと解いた。
離すまいとする山中さんの腕を避けながら、ゆっくりと手を伸ばす。彼の手が私の背中へと回って、しっかりと支えてくれる。



「坂口さん、私は彼のことを愛しています。この気持ちは、あなたには絶対に負けません」



うんと背伸びをして、山中さんの首に回した両手を引き寄せた。



近づいてくる彼の顔を見つめて、きゅっと口角を上げたのが合図。
彼と私の唇が重なる。