坂口さんが足を止めた。山中さんの肩に手を載せて、私を見据える目は憎悪に満ちている。
「まだわからないのか? 俺は君のことは愛せない」
「万里、いいのよ、あなたを責めたりしない。私が許せないのはその子なの、私を馬鹿にしたことが許せない」
「馬鹿にしてるんじゃない、有希だけが俺のことをわかってくれている大切な存在だ」
抱いてくれている山中さんの腕に、さらに力が入って痛いほど。懸命に私を庇ってくれる気持ちが嬉しくて堪らなくなる。
「黙ってて、私はこの子に用があるの、腕を離しなさい」
坂口さんの声に苛立ちが混じる。
ますます気に入らないと言いたげな表情で、私たちのことを睨みつけて。
「離さない、俺は有希しか愛せない、もう君の言いなりにはならない」
「あなたにも、この子の馬鹿がうつったの? 私と別れたらどうなるか、わかってるでしょう?」
「わかってる、だが、俺は有希を守りたい」
「有希? 聞いた? あなたのせいで万里は店を潰す気よ、従業員のことはどうする気かしら」
嫌味を込めた口調に反論の余地を探すけれど、どう考えてみても私たちは不利だ。高杉さんや仲岡さん、岩倉君のことを考えると山中さんも簡単には答えられないのだろう。
行き場のない悔しさが胸で疼き始める。
坂口さんが、ふんと鼻で笑った。

