「当たり前でしょ? あなたが毎日この子に会うために花屋に通ってることだって知ってるわ。この子が花屋に来る前から知り合いだったことも」
「やめろ、余計なことを言うな」
山中さんの声に負けない力強い彼女の口調が私を責め立てる。
どうして、そんなことまで知ってるの?
あまりにも知り過ぎている坂口さんが怖い。
そっと顔を上げたら、坂口さんの鋭い視線が私を貫いた。
「私と万里が婚約していることを知ってたんでしょう? 馬鹿よね……万里に遊ばれてたのよ?」
「遊びじゃない、俺は本気だ」
こんな状況でも坂口さんは勝ち誇ったような顔をしている。反論したいのに、あまりにも私の立場は不利だった。
言葉をぶつけようとしても、僅かに開いた口は懸命に息をすることしかできない。
「何なの? 言い返せないの? 怖がるなら最初から他人の男に手を出すんじゃないわよ」
さらに声に凄みを増した坂口さんが、私たちへと歩み寄ってくる。堂々とした歩き方に圧倒されてしまって、私は山中さんにしがみつくことしかできない。
山中さんが応えるように、私を強く抱いてくれる。

