「何してんの? 離れなさい!」



きんとした声が会場に響き渡る。
硬直して動けない私を抱いたまま、山中さんは庇おうとしてくれる。怖くて顔を上げて確かめることもできない。



「万里? その子は何? 何をしてるの? どういうつもりなの?」

「言わなくてもわかるだろう」

「何かあるだろうなあ……と思って来てみたら、やっぱりね。こそこそと隠れて、私を馬鹿にしてるの?」

「君には関係ない」



感情的な言葉をぶつける坂口さんに対して、山中さんは冷ややかな言葉であしらう。
彼の声を聴いて、どんな顔をしているのか想像したら余計に足が震えだしてきた。



坂口さんが大きく息を吐く。



「その子、まだ辞めてなかったのね。発注ミスをした責任を取って辞めるのかと思ってたのに、本当にうっとおしいわ」



誤発注のことは彼女の耳にも届いていたのだろうか。やっぱり、彼女は最初から私のことを敵視していたんだ。



「どうして、君がそんなことを知ってる?」



問い掛ける山中さんの声は鋭くて、隠れている私まで到達するほどの破壊力を秘めている。
そんな声さえも通じないのか、彼女は平然と笑い出す。