「有希、こっちを向いて」



頬を包んだ手が滑り降りてきて、ゆっくりと顎を持ち上げる。目を細めた山中さんが首を傾げながら私の唇を啄んだ。



何度も啄まれているうちに前へと傾いた体が、山中さんの腕の中へと倒れ込む。覆い被さるように唇を重ねる彼が、少しずつ私を溶かしていく。



ほどよく溶かされてもたれかかる私を、山中さんはしっかりと抱きとめてくれている。



「お客さんが来たら……どうするんですか」

「ドアも締めたし、ちゃんと看板を裏向けておいたよ。もう閉店だからね」

「まだ、花が残ってるのに?」

「もういいよ、十分だ。今日は送らせてもらえる?」

「でも、この後に片付けがあるんですよ?」

「先に帰るふりをして駐車場で待ってるよ、後で電話して」



声を発するたびに心地よい振動が体に沁みてくる。もたれ掛かった胸の感触、抱いてくれる腕の力強さを手放したくなくて、山中さんの背中に腕を回した。



できるなら、このままずっと抱き合っていたい。ぎゅっと腕に力を入れた瞬間、勢いよくドアが開いた。



びくんと体が大きく跳ね上がる。
開いたドアの向こうから威勢良く歩いてくるのは坂口さん。凄い剣幕の彼女の姿に全身が凍りついた。