「急に場所なんて見つかりますか? それに全部捌けるとは思えません、準備だって……」
山中さんの理想論に、高杉さんが現実を突き付ける。それでも山中さんは諦めないようで、あちこち目を泳がせては考え続けている。
隅の方で考えていた岩倉君が、ふと顔を上げた。
「いらっしゃいませ、どうされました?」
ぱっと明るい表情で呼び掛けて、軽やかな足取りで入口へと歩いていく。
店内へ入ってきたのは、今朝来店したばかりの佐久間さん。にこやかな笑顔でエスコートする岩倉君は、やっぱりすごいと思う。
花を選ぶ佐久間さんと岩倉君を見ながらも、私たちはまだ考え続けることを辞めることができない。
やがて岩倉君に誘われて、佐久間さんが私たちの方へとやって来る。
「こんにちは、誰かと思ったら山中さんじゃない。久しぶりね」
「いらっしゃいませ、佐久間さん。お久しぶりです。毎日来ているのですが、なかなかお会いできませんね」
山中さんと佐久間さんは顔見知りなのか、親しげな笑顔で挨拶をかわす。
「私は午前中に来ることが多いから……、どうしたの? みんな揃って浮かない顔をしているわね」
佐久間さんは敏感らしい。それとも佐久間さんの相手を岩倉君に任せておいて、必死に考え込んでいる私たちを見て気を悪くしたのだろうか。

