「彼女を好きになろうとしたけど、どうしてもできなかった」



山中さんが話すほど弱気になっていく。
彼女を愛していないと知って嬉しくなるどころか、聞いている私まで苦しくなってくる。



振り向くものかと耐えてきたけれど、やっぱり無理。



「それでも、ずっと坂口さんの婚約者を演じ続けるつもりなの? お店のために自分を犠牲にするつもりなの?」



思いきり振り向いて、言葉をぶつけた。
山中さんは目を見開いて、私を見つめている。



「店は俺だけの問題じゃない、従業員も守らなければならない、でも、俺は間違ってたよ」

「仰ることはわかります、でも彼女を好きになれないから代行の仕事で紛らわせてたなんて酷いです」

「仕事で割り切れるなら、彼女のことも割り切れるかと思っていたんだ。本気にならずに彼氏を演じきるつもりでいた」



山中さんは悲しい目をしている。彼なりに悩んだのだろうけど、私だって悩まされたんだ。



「じゃあ、本気で好きになっちゃったら、どうしたらいいの?」



まくし立てるようにぶつけた声は、山中さんの腕の中にすっぽりと包まれてかき消されてしまった。