今度こそ、練愛


沈み込む気持ちを逃がそうとして、ふうと息を吐いた。



「そうですか……せっかく高杉さんが考えてくれた配置なのに、そこはダメって頭ごなしに言われて、反論しようとしたら岩倉君に止められました」

「やっぱり岩倉君かあ……」



仲岡さんが店内で接客している岩倉君をちらりと見る。口を噤んで、何か言いたそうなのを堪えている感じ。



「やっぱり、って何ですか?」



問いかけると仲岡さんは人差し指を口に当てて目で合図。岩倉君の様子を窺いながら、私の手を引いて事務所へと連れ込んだ。



事務所の机の陰に屈み込んで、仲岡さんは声を潜める。



「岩倉君ね、彼女に気に入られてるみたい。何かと呼び出されてるのよ」

「え? でも坂口さんは婚約してるんですよね? まさか浮気ですか?」



食いつかずにはいられない。
あの岩倉君が平謝りしていた理由がわかったことともうひとつ。



もしも岩倉君が彼女と関係があるのなら私にも望みがあるのかもしれない、と単純に思ってしまったから。



ところが、仲岡さんはすぐさま首を振った。



「浮気とかじゃなくて岩倉君が使われてるだけっぽいよ、よく呼び出されてるもん」



呆気なく望みは砕かれて、浮上する準備をしていた気持ちは再び傾いていく。