仲岡さんが出社して間もなく、高杉さんは展示会の会場へと出かけていった。
飾った花たちの水やりと様子を見に行くとのこと。とくにブーケは細やかに水を足しておかないといけないらしい。展示会の開催中は朝夕二回、高杉さんと岩倉君が交替で会場へ行くことになっている。
仲岡さんと私は基本的に留守番。
今日は岩倉君がほとんど接客をこなしてくれるから、私たちはカウンターの中でショーウィンドウに飾る新しい花を製作中。
前回の白いカラーを撤去して以来、展示会の準備で慌ただしくて何にも飾っていなかったからそろそろ飾らねばと仲岡さんと意見が一致した。前回は店の壁の白い色だったから、今回は屋根のオレンジ色をベースにすることにした。
「ジュエリー観たかったなあ……」
仲岡さんが残念そうに呟く。
花の設営に行けなかったから、展示されているジュエリーをひと目も観ることができなくて悔しかったらしい。
「行かない方が良かったですよ、社長のお嬢さんが来てて、私すごく怒られましたから」
愚痴っぽく言うと、仲岡さんは眉をひそめた。
「坂口さんに会ったの? キツそうな人だったでしょう? 彼女が山中さんの婚約者だよ、たぶん有希ちゃんと同じ年だったと思う」
婚約者の言葉が胸に突き刺さる。
落胆と悔しさとが入り混じった気持ちが胸の奥で疼き出す。

