思いのほかショックは大きくて、翌朝は足が重くて出社拒否したい気分だった。
あの人が山中さんの婚約者だと知らされて、納得できない気持ちが半分。
もう半分は……何だろう。
「おはようございます、昨日はすみませんでした」
いつものように脚立に登って窓拭きしている岩倉君に呼びかけた。
私の尻拭いをしてもらったのに、高杉さんに呼ばれたとはいえ放ったまま帰ってしまったからなんとなく気まずい。怒ってるんじゃないだろうかと警戒心いっぱいで見上げる。
「おはよう」
振り向いた岩倉君は、いつもの無愛想な顔でとくに怒ってるようには見えない。
「謝ってもらって、後をお任せしてしまってすみませんでした、社長のお嬢さんとは知らなくて……、あの後大丈夫でした?」
「べつに、大丈夫だけど、今度からは気をつけなよ」
相変わらず抑揚のない声が脚立の上から降ってくる。
気をつけないといけないのは彼女が社長のお嬢さんだから、山中さんの婚約者だから、いろんな要素を考えていたら悲しくなってきた。彼女の顔まで思い出してしまったから余計に。
「はい、気をつけます、ありがとうございました」
もう一度深く頭を下げた後、見上げたら岩倉君は既に私ではなく窓の方へと向き直って窓拭きを再開していた。

