「移転前は『フラワーショップ・カワバタ』って言う名前だったの。お店のオーナーっていうか経営者の名前が川畑だったから」
頭の中が真っ白になった。
真っ白に染まった脳裏に言葉に代わって浮かんでくるのは川畑さんの柔らかな笑顔。問い掛けてみたけれど、答えてくれるはずはない。
動揺する私など気にも留めず、高杉さんはハンドルを握っている。日が落ちた景色の中、対向車のヘッドライトが眩しく通り過ぎていく。
これ以上、何を尋ねたらいい?
「川畑さん……ですか、今のお店のオーナーは山中さんなのに変ですね」
「変なの……かな?」
辛うじて搾り出した言葉に、高杉さんは首を傾げて苦笑い。きっと高杉さんは事情を知っているはずなんだろう。
「あの……何か事情があるんですか? よかったら教えてもらえませんか?」
「そんな深刻な顔しないで、もとは山中さんのお父さんの実家のお店なのよ、川畑は山中さんのお父さんの姓で、山中はお母さんの姓なの」
「ということは、御両親は離婚されたんですか?」
高杉さんにとっては大した事情じゃなくても、私にしたら重要なこと。山中さんか川畑さんか、どっちの名前が本当なのかわかるかもしれないんだから。

