「え?文化祭?」

「そう、文化祭」


朝日が煌めく今日この頃。
食パンにマーガリンを塗り、コーヒーを喉に流し込む。


「1日考えて見たんだけど、
捕まえるっていっても、家に乗り込むの
は流石にだめだし。
学校にってのも、非常識でしょ?」


「えぇ。確かにそうねぇ。
だから…文化祭?」


「そーいふこぉ!」


焼きたての食パンを口に入れしゃべったせいで、モゴモゴと声がこもる。

口の中で充分に味わい
ゴクッと、飲み込んだ。


「文化祭なら、一般の人がいても
不自然じゃないし。なにより
動きやすいでしょ」


「だけど、肝心の羽崎くんはどうやって
みつけるの?」


スクランブルエッグをフォークでつつき
ニコッと微笑む。


「だいじょーぶ!ちゃんと考えてあるわ」


フォークをビシッと構える。


「『あれ』を使うの」


「『あれ』?」


母…京香は不思議そうに首をかしげ
コーヒーカップにコーヒーを注いだ。


「あれを使って、羽崎 十哉を…」


グサッとベーコンに
フォークを突き立てる。



「無理矢理にでも引きずり出してやる…!」



口から「ふっふっふっ」と不気味な笑いが
こぼれ落ちる。



「…慧、犯罪はダメよ…!」


京香の心配そうな声が耳に響く。


「わかってるって!
あっちが抵抗しなかったらこっちも、
手出しはしないわよ」


「本当かしら…?
昔から、あなた危なっかしいところある
から…」


京香は顎に手をあて、「お母さん、心配」
と小さく呟いた。


「大丈夫大丈夫!心配しないで!
私だって、もう高2なんだから」


私がそう言うと、
京香は穏やかに微笑んだ。


「そうね…高2だものね」

「うん。だから、大丈夫だよ」

「えぇ。そうね…お母さん心配しすぎね」

「うん、心配しすぎ。
………ありがとう」


京香のジャムを塗る手がピタッと止まる。
そして、嬉しそうに微笑む。


「どういたしまして」



二人で顔を見合わせ、微笑みあった。