「このお嬢さんの言うとおりよ」
綺麗な透き通った声。
この声は……
「母さん…」
羽崎の母の
長く美しいまつげがゆっくりと持ち上がる。
そして、
綺麗な色素の薄い瞳で
羽崎の漆黒の瞳を見つめる。
「…十哉……ごめんね」
「なん、で母さんが謝るんだよ…
謝んなきゃいけないのは
俺の方なのに…!」
お母さんは羽崎の言葉に、首を左右に振る。
お母さんの…洋子さんの細い指が
羽崎の頬に、ソッと触れる。
「子供に、こんなに重いものしょらせて、
夢を諦めさせて……ごめんね…
重かったでしょう?辛かったでしょう?
でも、もう…いいのよ…?
あなたはこんなにも頑張ったんだもの。
もう、、自由になっていいの…」
洋子さんは両手で羽崎の両頬をフワリと包む。
「母さんはだーいじょうぶ。
母さんはあなたよりも強いもの。
病気にだって、簡単に負けてやるもので
すか。
足掻いて足掻いて、足掻いてやるわ」
洋子さんは、目元を緩めて
ふふっと優しく笑う。
「だから、1つ母さんのお願いを聞いて」
そう、洋子さんが真剣に言った言葉に
羽崎は一瞬目を見開き、だが
そのあと深く頷いた。
それを確認して、洋子さんは1つ間を置いて話す。
「 十哉、あなたは歌手になりなさい。
あなたには才能がある。
人を幸せにする才能が。
それを、無駄にしちゃ駄目。
それは、奇跡の才能だもの」
「でも、俺…」
「 母さん見たいなぁ。
十哉が楽しそうに歌ってるところ。
この頃全然歌ってくれないじゃない?
寂しかったんだからね」
そう、洋子さんは子供のように言うと
ベットから「よいしょっと」と、
声をあげ、起き上がった。
「十哉の歌がね、どんな薬よりも
効くのよ。
十哉の歌が母さんの一番の薬になるの。
……だからね。お願い」
「母さん……」
羽崎は戸惑いの表情を顔に浮かべたが、
母親の顔を見て、決心が決まったのか
こちらに体を向け
私に、真剣な瞳を向けた。
そして、静かに頭を深く下げた。
「何回も、断っといて
今更って思うかもしれません」
頭を下げたままの状態で羽崎くんは話を続ける。
「だけど…俺は、歌いたいです。
歌を……歌いたいです……!
だから、、」
羽崎はふっと顔をあげて、私の目の前に自分の拳を差し出した。
「俺の、相棒になってくれませんか?」
『私の相棒になってくれませんか?』
前の私の言葉に重なるその言葉。
「それは、誰の言葉?」
お母さんに言われたから?
それとも……
「俺の言葉です」
その言葉をきいた瞬間、思わず笑みが溢れる。
「その言葉がききたかったの」
自分の拳を羽崎の拳にコツンとぶつける。
これから、よろしく
の意味を込めて。
「これから、よろしくね。
羽崎 十哉くん!」
「こちらこそ、よろしくお願いします。
晴瀬 慧さん」
そう二人で言い合い、そのあと顔を見合わせ笑いあった。

