シーンと静まり返る社長室。


いつのまにか、強く握られていた拳。

プルプルと小刻みに震える。

これは、決して寒さで震えているわけではない。
これはアイツに対しての……怒りの震え。



「な、なんなの!?あの子生意気!!」


目の前の人物は、
絨毯に高いヒールをガツガツと打ち付けている。

これが、大理石の床だったら
凄い爆音が社長室中に響いていただろう。



「慧!やめましょう!
違う人にすれば良いじゃない!」


ヒールを打ち付ける行為が終わったかと
思うと、そんな声が聞こえてきた。


……違う人。


社長はデスクの引き出しから、大量の付箋に彩られたファイルを取りだし
机にバンッと置いた。

そして、顔写真付きの書類を抜き出して
机にひろげる。



「ほら、この子とかどう?
歌も悪くなかったし、
顔もイケメンじゃない!」



確かにイケメンだと思うし、歌も下手なわけじゃなかった。
でも……



「……私、もう一度誘ってみる。
うちの事務所に入るように」

「え?」


社長は瞳をパチパチさせて、こちらを
見ている。


「私は羽崎くんがいいの。
ううん、むしろ……」


窓から風が入り込み、私の髪を揺らす。




「羽崎くんじゃないとダメなの」