“君想い恋詩”


《十哉side》

「お願いします!
あとで代金はちゃんと払います!!」

「困るよー、
このまえも、そういってお金を払わずに
逃げちゃった子がいてねー」

「急用なんです!
急いで行かなきゃいけないんです!!」

「若いんだから、
自転車でも乗っていったら?

とにかく、お金が無いんなら
タクシーに乗せることはできないよ」

「そこをなんとかお願いします!!」

「君、いい加減しつこいよ!
駄目なものは駄目」


タクシーの運転手に頼み込んでみても、
頑なに断れられる。


っ…くそ!時間がないのに…!


財布には、病院までのタクシー代を払えるだけの金は入っていない。


でも、速くいかないと。


ドンドン焦りが積もる。


「お願いします!!
必ず、払います!」


「駄目ったら、駄目!
もう、行っていいかな?
他にもお客はいるんだ」


開いていた窓ガラスがドンドン閉まっていく。

…っ、このままじゃ…!




「運転手さん!!」


そう思ったとき、横から1つの声が聞こえた。


「これで、病院までお願いできる?」


声の主は、そう言い
1枚のお札を運転手に向かって差し出した。


「勿論いいよぉ。
でも、病院までだったら
そんなに要らないよ。
お嬢ちゃん一人だったら
三千円で十分だよー」


「一人じゃないわ。彼も一緒に」


彼女は、後ろの席に早々と乗り込み
そして俺もその隣に引っ張りいれる。


「おい!?ちょ、」

「黙って。
急いでるんでしょ?」


彼女は小さな声で「話を合わせて」
と呟いた。


「え?君たち知り合いなの?」

「はい!私たち兄弟なんです」


な、なにを…


「へー、そうなの。
確かに、よく見れば
顔が似てる気がするなぁー」


そんな、馬鹿な。
全然似てないだろ。


「あとで、払うってそういうことかぁ。
あとで、お姉ちゃんが来るからって
意味ね。
それなら、そうと
ちゃんと言ってくれなきゃー」


運転手さんは、にこにこ笑ってそう言うと
車を発進させる。


「すみませーん。うちの弟たらっ、
昔から大切な部分が抜けててぇ」


誰が、弟だ。

そう思ってはいるが、助けてくれたことには変わりない。
黙って従うしかない。


「…すみません。
一言足りなくて…。
急いでいたので、つい、、」


と、運転手に適当な言葉を返す。


「いいよ。いいよ。
病院までだっけ。
急いでるんだよね?
じゃあ、
おじさんも急いじゃおうかなぁ」


「ありがとうごさいます!」



はぁと一息つき、シートに体を預ける。















でも、安心してはいけない。
まだ、気は抜けない。



『十哉くん、落ち着いて聞いてね。
洋子さんの…お母さんの容態が急変して
今、とても危ない状態なの…』

『救急治療室にさっき、運ばれて
医師が必死の治療を行ってはいるけど…』

『とにかく、今すぐ病院に来て』


病院からきた電話。



膝の上で組み合わせた手を強く握る。



速く。速く。
行かないと。



…………母さん











膝の上で組み合わせた手が小さく小刻みに震える。

それを、抑えようと
手に力を込める。




…………情けない




自分が本当に情けなくて、
カッコ悪くて、もう本当にどうしようもなくて………嫌になる。





学校の奴等は、俺のことが羨ましいっていうけど……俺なんかのどこがいいのかわからない。



ただ、顔が良いから?
それとも、勉強も運動もそこそこできるから?
そんなの……全部、俺の力じゃない。


全部、親からもらったようなものだ。


結局、俺は何もできない。



ーフワッ



手に感じた、柔らかい暖かい感覚。


不思議と、震えがどんどん収まっていった。

不思議と……意味もなく泣きたくなった。



それが、彼女の…晴瀬慧の手だということに
気づいた。


「大丈夫」


彼女が小さく呟いたその言葉。



根拠なんてない。

そう言われたって、母が危ないことに変わりはない。

でも、、本当に大丈夫な気がした。





深呼吸をして、速くなっていた鼓動を
平常値に戻す。

震えは止まっていた。



《十哉side》終