「羽崎くん」
君に言いたいことがあるんだ。
しつこいよね。
でも、お願い。聞いて。
ゆっくりと深呼吸をし、静かに
彼の瞳を見据える。
「………ごめんなさい。
やっぱり私、君を諦めたくない」
そう私が言うと、羽崎の瞳が戸惑いの色を見せる。
「俺は…」
あのときも、言ったよね。
『俺は…』って。
羽崎くんは迷ってる。
だから、そんなこと言うんだよね。
あのときも一瞬迷ったんだよね。
君をそんなにも躊躇させているものはなんなの?
迷わせているものはなんなの?
ーー♪ー♪、♪~♪♪~
そのとき、誰かの携帯が鳴った。
この曲は………worldtree
いったい、誰の……
そう思い、キョロキョロと周りを見渡す。
すると、目の前の彼が制服のポケットから
黒い携帯端末を取りだした。
メロディーの出所は、その携帯端末のようだ。
なんで、羽崎くんが……この曲を……
いや、今はそんなこと……
羽崎は端末の画面を一目みて、固まった。
その瞬間、直感した。
これだ。
彼を縛りつけている…苦しめている
原因はこれだ。
て、直感した。
彼は、私の方をチラッと一瞥して
「すみません」と弱々しい声で呟いた。
そして、ゆっくりと携帯を耳にかざす。
小さく、はい。はい。と相づちを繰り返す羽崎。
やがて、話が終わったのか
携帯を持つ手を力なく下に落とし
静かに、口から言葉を発する。
「……すみません。
話はあとにして良いですか…?」
少し、掠れた弱々しい声。
「急いで、行かなきゃいけないんです」
下がりかけの顔から見える瞳には
戸惑い、悲しみ、そして……不安が映っている。
彼は、ヒラッと体の向きを変え
校門の外へと足を進める。
人混みはいつの間にか、半分に分かれ
羽崎の通る道ができている。
遠ざかっていく彼の後ろ姿。
なんて、悲しいんだろう。
なんて、弱々しいんだろう。
彼の背中が泣いている。

