速く、もっと速く。
動け。私の足。
ーーハァ、ハァ
汗が頬を伝う。
苦しい。吐きそう。
学校まで、あとどのくらいだろう。
わからない。そんなの考えてられない。
ただ走るしかない。
ーーハァ、ハァ
街中を走って、走って、
やっと、見覚えのある中学校にたどり着いた。
ーーつ、着いた…
汗が粒となって、前髪から滴り落ちる。
それを服の袖で拭う。
校門の柱に体を預け、一息つく。
ちょうど、授業が終わったみたいだ。
校舎からちらほらと、生徒たちが出てきた。
羽崎くんは……
その生徒たちの中から羽崎くんの姿を探そうと目を左右に動かす。
その中に羽崎くんの姿はない。
まだ校舎のなか?
それとも、もう帰っちゃった?
そんなことを頭に巡らせている中
周りが、やけに騒がしいことに気づいた。
なぜか、私の周りに人が集まっていた。
え?なんか、、囲まれてる……?
生徒たちの視線が私に集まっている。
「あの!もしかして、
あの時のお姉さんですか?」
生徒の一人がそう、話しかけてくる。
あの時の……お姉さん…?
な、なんのこと?
私の頭にはクエスチョンマークが浮かんでいる。
「羽崎くんを連れ去った
謎の美少女ですよね!?」
1枚の紙をヒラッと翻し、
そう言う生徒。
私はその紙に目を向ける。
校内新聞みたいだ。
これが、私になんの関係が……
…………な、なにこれ!?
私が驚いたのは、
関係がないと思っていた新聞に
私の顔がドンッと、でかでかと載っていたからだ。
いつの間に、撮られたのか……
知らないうちに、撮られていた写真。
新聞の見出しは『謎の美少女現る!』
と掲載されている。
これは…告白大会のときの…
司会の人からマイクを借りて、
会場の人達に
『羽崎くんを借りていきます宣言』
したときの写真。
一応、変装のつもりで
眼鏡と帽子を装着したのだか、こんなに大きく、度アップで載せられてしまっては
変装の意味がない。
面倒なことになった。
と、内心でため息をついた。
しょうがない。こうなったら、この状況を最大限に利用させて貰おう。
そう考え、話しかけてきた女の子に
にっこりと微笑む。
女の子が顔を赤く染めたことには
気にも止めず、話をきりだす。
「羽崎十哉くんに用があるの。
良かったら、
呼んできて貰えないかしら?」
私がそう言うと、女の子は
「は、はい!わかりました!」と慌てて答え、足早に校舎へ向かおうとする。
「あ!ちょっと待って」
女の子の足が止まる。
それを確認して、いい忘れていたことを言う。
「私が、あの時の人だってこと
内緒にしてくれるかな?
言っちゃったら、羽崎くん
絶対きてくれないと思うから……」
私だと知ったら、羽崎くんは絶対きてくれないだろう。
「はい!了解しましたっ、
任せてください!!」
女の子は、ニコッと可愛らしい笑みを見せ
校舎へと走っていった。
なんて、良い子だろう。
知らない人のお願いを素直に聞いてくれるなんて。
優しい子だなぁ。
と、しみじみと思っていると
周りからドドッと声をかけられた。
「羽崎くんとは、
どんな関係なんですか!?
まさか、彼女さんですか!?」
「どこで知り合ったんですか!?」
「羽崎くんの彼女なんて、羨ましい!!
でも、お似合い!」
なんて、女子からは言われ
「お姉さん、どこ校出身なんですか!?
羽崎と付き合ってんですか!?」
「電話番号教えてください!
てか、俺と付き合ってください!!」
「羽崎羨ましいー!!
こんな綺麗な人が彼女なんて!」
なんて、男子からは言われる。
変な誤解をされているが、それは気にせず
どんどんされる質問をヒラッと受け流す。
止まることのない質問の波に酔い、
自然と顔が下に下がる。
羽崎くん…早く来て!
と、心の中で羽崎に助けを求めたとき
押し寄せる人混みの中から
「悪い!とおして」という声が聞こえた。
この声……
ぎゅっと瞑っていた瞼をゆっくり持ち上げる。
そして、顔を静かにあげた。
羽崎くん…
そこにあったのは待ち望んでいた彼の姿だった。

